きっかけのサンドイッチ【後編】 メインイメージ

第2回

きっかけのサンドイッチ【後編】

竹内友梨さん
まるきベーカリー店主。

「まるきベーカリー」の竹内友梨さんに、現在までのあれこれを聞いていきます。
前編では、神戸に行き、1店舗目でのパン修行を終え、次のステップに進み始めるところまで伺いました。さて、その後を聞いていきましょう。


まるきベーカリーに入るとすぐに、おさるさんがお出迎えしてくれます

神戸の下町、地元で愛されるパン屋さん

個人経営のお店を探し始めた友梨さん。よりパンを深く知るために
「すべての仕事に携われること」
「近くですべての仕事を見られること」
この二つを条件に色々なパン屋さんを巡ります。ほどなくして、とあるパン屋さんに出会うことに。
そこは地元に根付いた街のパン屋さんといった雰囲気でした。

「お店に初めて行った時に、お昼過ぎくらいだったのに全て売り切れだったの。30分後にクリームパンが焼けるよって教えてくれたから、後で戻ってきて、焼きたてのクリームパンを買ったんだ。早速、近くの公園で食べたら、今まで食べたどこのものと違う!本当に美味しい!って。生地がしっとりふわっとしていて、中のクリームもトロッとコクがあってね。クリームパンがこんなに美味しいなら、他のパンも絶対に美味しいに違いないって確信して。その足でお店に戻って、ここで働きたい!と伝えたよ。」

そのお店は流行ではなく、生地の旨味や小麦本来の味が活きるパンにこだわりをもった神戸の人気店です。
今思うと、何と無謀な・・・と笑う友梨さん。まっすぐな気持ちと熱意が届いたのでしょう。
当時お店ではスタッフを募集していなかったそうですが、縁あって採用となり、働かせてもらうことに。

ここから友梨さんのパン修行が再び動き出します。1件目で学んだ事をベースに、こちらの店では個性や自由な発想を身につけていきました。フロインドリーブでパン作りにおける礎を学び、2店舗目のお店でパン作りの更なる面白さに目覚めていき、更にパンの世界に深く身を投じていきます。

「パンに対しての固定概念が少なからずあったけど、それが良い意味で外された感じで。自分の考えるパンの常識を覆されたんだよね。決まりはない、正解は自分の中にあるんだなって。バゲット一つとっても答えは一つじゃなく、自分が心から良いと思えるものを作ることが大切なんだって改めて感じたの。地域に根差して、その土地のお客様に美味しいと思ってもらえるパン作りを日々学ばせてもらったよ。」

少人数のスタッフで毎日たくさんのパンを焼き、パン屋としての技術やノウハウを磨いていく日々。
あっという間に月日は流れて4年が経ち、徐々に友梨さんの心の中には小さな蕾が膨らみ始めます。

「地域に愛されるパンを自分で作りたい。地元の人に来てもらえる、自分が美味しいと思うパンを並べたパン屋さんになろう。」

パン屋さんになるなら地元浜松でとの思いから、長かった神戸での生活に一区切りをつけ、地元浜松で開業準備を始めます。


趣味は世界の地図集め。まだ見ぬ国へ思いを馳せながらの妄想トリップ

まるきベーカリー開店、そしてこれから

浜松に帰ってからは、自転車で通える範囲の物件を探し、開業準備をすすめていきます。そして2015年広沢に「まるきベーカリー」をオープン。毎日約20種類のパンが並び、ハード系や菓子パン、食事パン、季節限定のパン等、食欲を刺激するものばかり。友梨さんが試行錯誤する中で納得し、本当に美味しいと思うパンは、訪れるお客様を笑顔にしています。

「地域に根付いたパン、年齢問わず幅広く食べていただけるパンを作りたいと思っているよ。」

客層を見ていると、男女問わず、年齢層も幅広い。小さなお子様連れのお母さんや、パンが大好きなおじいさん、サラリーマン風の紳士、お友達の分含めて抱えきれないほどのパンを買って帰るご婦人等、様々な方に優しいお店なんだと実感します。友梨さんのパンは、女性ならではの柔軟でふんわりと包み込むような印象のものもありつつ、パキっとした個性を感じるパンもあり、色々な側面を持ったパンが並んでいて、様々なタイプのパンにハッとさせられます。さりげなく寄り添ってくれるパンもあり、店主の芯を感じるまっすぐで無骨なものもある。
店内のナチュラルで温かい雰囲気と、美味しいパン、ほっとする接客は多くのお客様を魅了し、お店を出るころには、「また来たいな」と思わせてくれます。



まるきベーカリーの外観も可愛らしい。毎日丹精込めた美味しいパンが並びます。

ある日、印象的な会話がありました。
「毎週決まった曜日に来て下さる地元の方にお会いすると、ふとお見えにならない日があると、どうしたかな?ケガや病気などされていないといいんだけどって、少し気になっちゃうんだよね。もちろん、うちはパン屋だから、絶対に来なくちゃいけない場所では無いけれどね。」

パン屋さんとして、地域に根付き、地元のお客様とのやりとりを大切にしてきたからこそのフレーズに思えて、実に友梨さんらしい。彼女の人柄がそのまま表れた優しい気持ちで、そこには、何の雑味もない、そのまんまの清らかな心から出た言葉に、心根の綺麗いろが感じられました。
そんな友梨さんの作り上げたお店だからこそ、現在多くのお客様に愛されるお店になっているのだなと。きっとすでに、パン屋さんとしての役割だけでなく、人によってはちょっとした心の拠り所、ほっとする場所になっているのかもしれません。

まるきベーカリーがオープンして、早6年。
小麦農家さんを訪れたり、浜松で小麦を育てるプロジェクトに参加したりと、真摯に小麦と向き合う日々。
近年では地元のイベントに出店したり、コーヒー屋さんとイベントを企画したり、お店を飛び出して、色々な場所で新たな取り組みもしています。変わっていくこと、変わらないでい続けることを見極めながら、毎日ひたむきにパンを焼いています。

修行を経て、独立する中で、楽しい事も大変な事も沢山あったと思います。その過程で、悩み、考え、立ち止まり、原点の気持ちを振り返りながら、今現在の芯となるものを作り上げていったゆりさんを見て、眩しさを感じるとともに、時折見せる友梨さんのおどけた表情に「あ、中学のころと全く変わらないな」とも思うのでした。

おわり

【友梨さんより】
お弁当書簡の第1回目のゲスト?として選んでもらって、本当に光栄です。ありがとうございます。
お弁当美味しくいただきました!どれも大好きなものばかり!特にポテトサラダと卵焼きは本当に大好物。
りえちゃんの優しさと人柄がお弁当のお味にしっかり滲み出てるなぁって思ったよ。
自分の為だけにお弁当を作ってもらえるって、大人になったらそんなにあることじゃないから、それもとても嬉しかったよ。
高校生時代に母に作ってもらっていた以来じゃないかな。
今回パン屋になるまでのあれこれを話して、過去の自分に出会った気がしたよ。あの時、勢いあったなぁとか、あんな事考えていたなぁとか。
りえちゃんとは仕事の事も話すし、プライベートでも本当にいろんな事聞いてもらったりしているね。
楽しい事を話せば一緒に笑って共感してくれるし、ちょっと落ち込んで悩みを相談したら、そっと背中を押してくれる言葉をかけてくれて。
いつもありがとう。これからもお互いお仕事もプライベートも楽しんで歳を重ねていきたいね。

最後に改めて、お弁当ごちそうさまでした。

第1回

きっかけのサンドイッチ【前編】

竹内友梨さん
まるきベーカリー店主。

第3回

お母さんの魔法のオーブン【前編】

神ノ口優子さん
ちいさなお菓子工房ひつじ 店主。