きっかけのサンドイッチ【前編】 メインイメージ

第1回

きっかけのサンドイッチ【前編】

竹内友梨さん
まるきベーカリー店主。

これから会う素敵なあの人をイメージして作るお弁当と、いろいろなおはなし。

ちょっと気になるあの人の、大切にしていることや、今までたどってきた道のりなど、素敵だからこそ、あれやこれやと聞きたくなる。自分とは違う時間を過ごした、ちょっぴり憧れる人々に話を聞きたくて始めるこちらの不定期連載、題して「おべんとう書簡」。

これから会う素敵なあの人を想って作るお弁当。こんなお弁当なら喜んでくれるかな・・・想像しながら作って、お弁当箱に詰めて。ハンカチでキュッと縛って出来上がり。お弁当片手にてくてく、素敵なあの人に会いに行く。

今日のお弁当は、おにぎり、甘い卵焼き、ほうれん草の胡麻和えにポテトサラダ。麹漬けの焼き魚も入れてほっこりする定番のお弁当。食べてもらいたいあの人は、毎日小麦と向き合っているから、あえてのごはんのお弁当。
美味しく食べてくれるといいな、早く会って色々お話聞きたいな。はやる気持ちを落ち着けながら、約束しているあの人のもとへ。

第1回目は、普段からお世話になっている広沢「まるきベーカリー」店主、竹内友梨さんに会ってきました。

ふんわりとした女性らしい佇まいに、白い肌。ミナ ペルホネンの洋服がとってもお似合いの友梨さん。
おっとりしていますが、さすがお店のオーナーだけあって芯の通った女性です。中学の同級生の彼女とは、お互いが開業を決意した30代前半に再会しました。彼女がパン屋さんになるきっかけをちゃんと聞くのは、今回が初めてです。さて、どんないきさつがあるのでしょう。

パン屋になるつもりは無かった

東京で大学生活を送っていた友梨さん。友人が働くバイト先で人手が足りないとの話があり、ちょうどバイトを探していたタイミングもあって、そこで働くことになります。今思えば、そこがすべての始まり。勤務先は、渋谷の百貨店にあるパン屋さんでした。そこで接客を担当する事になったのですが、上司から「声が小さい」との指摘があり、ほどなくして製造に担当が変わることになりました。

「普段から割と声が小さいと言われることがあるのだけど・・・。この時も指摘されてね。そんな中で、接客から中に入っての製造に仕事が変わったの。担当したのはサンドイッチだったんだけど、作ったら出来栄えが綺麗で丁寧だって、店長に褒めてもらえて。あ、楽しいなって。素直にうれしくてね。そして、自分が作ったサンドイッチを買って下さるお客様の姿を見たら、買ってもらえることの喜び、喜んでもらえることの有難さを実感できたの。気づけば、大学生活の2年半はこのパン屋さんに在店していたんだよね。」

後に大きなきっかけとなるけれど、意外にもこの時はパン屋さんになるつもりは無かったそう。でも、違う店で働いていたら、今の自分はいないと語ります。

「今となっては、あの時のサンドイッチがすべての始まり。最初に働かせてもらったパン屋さんでの経験があって、今があるんだなって。」

安定した暮らし、そして神戸へ

大学卒業後は、地元浜松に戻って事務職へ就職をします。安定した毎日の中で過ごし、帰宅後は自分の時間にゆとりのある暮らしをする日々。そんな数年が過ぎたころ、漠然とした将来への不安に駆られることに。

「仕事に不満があるわけではなかったけれど、将来への不安がふつふつと湧きあがって・・・。年齢的なものもあったのかな。自分は何もしていない・・・そんな気持ちになってしまって。」

就職してから数年が経ち、ちょうど色々と先の事を考える時期だったのかもしれません。私も同じようなタイミングで路線変更をしたので、共感する部分がありました。

「好きなことを仕事にしたいなって、思っちゃったんだよね。そんな時に思い出したのが、学生時代にバイトしていたパン屋さんでの日々で。パン作り楽しかったな、あんな充実感をまた味わいたいな。そうだ、パンを作れる人になろう!ってね(笑)」

人生の中での大きなターニングポイントも、ひらりと行動に移せた友梨さん。理由はシンプル。”パンが好きだから”。そのシンプルな原動力が友梨さんを突き動かします。今では浜松にも人気のパン屋さんがあちこちにあって、パン好きの方も多いですが、10年ちょっと前までは、まだ浜松にはパン屋さんは少なかったそうです。

「パンと言えば神戸!って思って。神戸には全国区の大手のパン屋さんもあれば、小さな地元に根付いたパン屋さんも沢山あって、とりあえず神戸に行けば素敵なパン屋さんがある。そこでパン作りを学びたいと思ったの。でもこの時も、パンを作れる人にはなりたかったけれど、自分でお店を開こうとは思っていなかったな。」

そうして、仕事を辞め、何のつてもないままに神戸へ向かいました。


おどけて笑う姿は、中学時代と変わらないなあ

神戸でのパン修行の始まり、パン漬けの毎日

特に神戸につてのなかった友梨さん。パン作りを学ぶべく、求人募集を見てパン屋さんでの仕事を探し始めました。
パン屋さんの募集条件を見ると、当時は「経験者優遇」と書かれているところが多かったそう。そんな中、未経験者でも受け入れてくれるパン屋さんに出会います。それが全国的にも有名な老舗パン屋「フロインドリーブ」。創業1924年、様々な種類のパンや焼き菓子、カフェも併設された長きにわたって愛され続けるパン屋さんです。ここでパンと焼き菓子を学ぶことに。

「体験見学をさせてもらって、実際に働かせてもらえることになって。ここでパンに関する基本的な知識やノウハウを勉強させてもらいました。年齢関係なく、しっかりと教育してくれる社風で、年上の先輩だけでなく、時には年下だけど先輩にあたるスタッフに指導してもらったり、色々とパン漬けの日々を過ごしたの。憧れて入った世界だけど、やっぱり現実は厳しかったな。朝早いのはもちろん当然なんだけど、クリスマスのシュトーレンの季節になると更に忙しくて。10月から1日3~400本のシュトーレンを仕込み、そこからクリスマスに向けてどんどん増えていく。本当にたくさんのパンを作り続ける毎日で・・・。でもね、先輩が私の日々の食生活の事とか気にかけてくれてね。見守ってくれる温かい環境に身を置けて、本当にありがたい毎日だったよ。」

ふんわりとして、おとなしい印象の友梨さん。そして、パン職人の朝は早く、肉体労働も多い世界。重たい材料を運んだり、やけどを負ったりと、学ぶ喜びもあれば、大変なことも多い仕事に、周りのスタッフから真っ先に辞めてしまうだろうと思われていたそう。しかし実際には芯が強く、決めたらやり遂げる精神力の持ち主。周りの心配をよそに、2年半以上在籍しました。実際に自分にも後輩ができ、以前の先輩と同じ立場になると必然的に見えてくる”卒業”。こちらのお店ではひと通りできるようになると一区切りをつけ、、次のステップへ進む=卒業するというシステムだったそうです。

「大手のパン屋さんでパンの基本を学んだら、今度は個人店で修業したいなって考えたの。今度は小さなパン屋さんで更にパン作りを学んで、パンをまた違う角度から勉強してみたいなって。パン作りのすべての工程に関わって、近くて全ての仕事を見て吸収できる個人のお店を探すことにしたの。」

ほどなくして、お世話になったフロインドリーブを卒業し、個人で経営しているパン屋さんを巡ることに。自分でお店の雰囲気を見て回り、実際にパンを食べてみて、ここだ!と思うお店を探し始めます。
パン修行の第2ステップへ動き始めた友梨さんですが、意外にもこの頃でもまだパン屋になりたいとは考えていなかったそう。自分で店を持つことは夢のまた夢だと思っていました。ただパンを学びたい、パンの事をもっと知りたい、そんな気持ちで動き始めました。

後編へ続く

第2回

きっかけのサンドイッチ【後編】

竹内友梨さん
まるきベーカリー店主。